ビールに限らず、ボトルラベルはその会社の顔であるだけでなく、デザインを通して、自分の生い立ちや、いかに優れた品質でウマいかを、ラベルの中で精一杯自己主張しているようにも見える。このように、個性豊かで多彩なラベルが楽しめるようになったのは、19世紀に入ってからで、それまでは手書きのものか、一色刷りのものがほとんどだった。

 ラベルが初めてこの世に登場したのは、今からおよそ6000年前、紀元前4000年のことで、人類最古の文明といわれているシュメール文明の頃。シュメール人たちはワインの容器の栓に、品質を保証するスタンプを押したり、封印をしており、それがラベルの起源だといわれている。こんな昔でも人類は、酒の味にうるさかったようだ。もちろんシュメール人たちはワインだけでなく、この頃すでに発達したビールも飲んでいたというから驚かされる。

 ギリシア人やローマ人は、アンフォラという両側に取っ手のついた細長い壷に、その内容物と量を記入した、荷札のような紙片を取りつけていたが、この方法は、なんと1800年頃まで続いているのだ。現在のラベルの形に近い手書きのものや、銅版印刷のラベルをボトルに貼付するようになったのは、18世紀後半、ガラス瓶が急激に普及するようになってからのことだ。この頃から印刷技術の開発とともに、ラベルも多彩になってくるのだ。

 1799年に、ドイツのアロイス・ゼーネフェルダーによって、石版を使用して印刷するリトグラフが発明され、ラベルデザインもさまざまな物が登場してくる。当初はまだ一色刷りだったというものの、わずか数カ月の間に、数千種類ものラベルが制作されたというから、いかに多くの人々が待ち望んでいたかがわかるというものだ。それから後の1837年には、ゼーネフェルダーの弟子だったゴットフリート・エンゲルマンが、優れた多色刷りに成功している。さらに、印刷技術の進歩で、色の濃淡や微妙なカラーニュアンスまで出せるようになってきたのだ。

 こうなってくると、デザインやカラーだけでなく、ラベルの形にもこだわってくるようになる。はじめはラベルの形というと、四角形のものが当たり前だったが、1847年に、雲の形をしたラベルのコニャックが登場し、このことによって、他のラベルの形も大きな変化を見せ始めてきた。さまざまにデザインされたラベルが多く生み出される中、ビール場合は現在も多く見られるような楕円形のものが主流になっていった。

 ラベルがコレクションされるようになったのは、リトグラフで爆発的に制作が行なわれた1800年頃からで、ビールラベル・コレクションに限っていうと、1840年頃から始まっている。当時から今日まで維持されてきたラベルの数々を見ていると、150年前のラベルコレクターが、ラベルを手に入れてニヤニヤしている姿と、現在の自分とが重なり、同じ趣味を持つ者だけが共有する喜びが伝わってくる。

 コレクターとしては、これまで存在したラベルのすべてを手に入れたいとは思うのだが、これはとてつもなく確率の低い偶然に頼るしか方法はない。暇を見つけては古本屋を回ったり、アンティークショップで、ラベルのついた箱やガラス瓶を探してみたり・・・・・。しかし、かんたんに見つかってもらっても困るのだ。最後の1枚が見つかった瞬間から、私はビールのボトルラベル・コレクターとしてすることがなくなってしまうからだ。コレクターとは、かくもわがままなものなのである。